2024-10-29

「時を超えた肖像 何処にもいない誰かの物語- 古色素描第二弾」

レオナルド・ダ・ヴィンチの天使のような人物
Nobody_#14_ver1

私はこれまで、人物デッサンを単なる練習として描いてきました。しかし、そこに何か新しい表現の可能性を感じ、ドローイング作品へと昇華させたいと考えました。

最初の試みは、鉛筆で描きながらも、ベラスケスや印象派の油絵のような、ぼんやりとした曖昧な表現を取り入れることでした。細部を描き込むのではなく、少し離れて見たときにリアルに見えるような、コンテやパステルで描いたような雰囲気を出したかったのです。

しかし、この方法は結局、鉛筆で描いた肖像画に過ぎず、新しい作品と言えるものではありませんでした。そこで、モデルの特定の肖像画を描かず、誰かに似ているようで誰でもない、架空の人物を描くことにしました。このシリーズの作品には、「nobody」というタイトルをつけました。

次に、作品をインターネットで公開することを考えた際、デジタル技術の可能性に気づきました。スキャンした画像は、元の鉛筆画とは全く同じものにはなりません。ならば、その画像を自由に編集し、全く新しい作品として作り出すことができるのではないかと思ったのです。

つまり、デジタルデータを一つの芸術作品として捉えたのです。まず、鉛筆画をセピア色のコンテで描いたような雰囲気に、画像編集ソフトで加工しました。これにより、実際のコンテでは表現できないような繊細な線も描くことができます。また、デジタルであれば、何度でも描き直しや修正が可能です。

デジタルによる加工は、この作品が初めてではありません。以前から、鉛筆画をコンテ画のように見せる加工を行っていました。今回の作品では、さらに一歩進んで、古い紙に描かれたような、アンティークな雰囲気を出せるようにしました。

こうして完成した作品は、元の鉛筆画とは全く異なる、デジタルならではの魅力を持つものとなりました。まるで、遠い昔の画家が描いた、誰かの記憶に残るような肖像画のようです。

この作品は、インターネット上に公開されることを前提に制作されました。私の主な作品である油絵は、光を反射する素材を使用しているため、スキャン画像ではその魅力を十分に伝えることができません。そこで、最初からデジタル上で完成させる作品を作ろうと思ったのです。

この作品は、シリーズの二作目です。今回は、レオナルド・ダ・ヴィンチの「岩窟の聖母の天使の習作」を参考に、静かに物思いに耽るような人物を描きました。やや後ろを向いたポーズや、穏やかな表情は、レオナルド・ダ・ヴィンチの作品へのオマージュと言えるでしょう。

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